気のない返事になっても、片瀬は怒った様子もなく話し続ける。
「だってあの優しい生徒会長が返事は一切してないらしいしね」
「……」
「付き合いたいっていうよりも、気持ちを知ってほしいってことなんじゃない?まぁ、あわよくばって思ってる子の方が多いだろうけど」
身も蓋もない言い方だが的を射ていると真琴は思った。
今この時期手紙を渡してくる多くの女子生徒は、憧れの生徒会長とお付き合いが出来るなんて思ってはいない。
自分の存在を知ってほしい。
想いを寄せていたことを心に留めておいて欲しい。
そんな望みを自分では直接渡せもしない手紙に託していた。
もしかしたらという、一縷の望みを心の中に押し殺しながら…。
そんな彼女たちの想いを、真琴は嫌になるくらい理解出来た。
「あ、噂をすれば」
「え?」
片瀬の声に反応して顔を上げると、教室から移動する兄、体操着であるジャージ姿の蒼人(あおと)が窓の下に見えた。
真琴の二つ年上の蒼人は、百八十センチ近くある長身にサラサラの黒髪。
涼しげな目元にすっきりと通った鼻筋。
誰が見ても整った顔と評する容姿を持った兄は、真琴の自慢でもあり悩みの種でもある。
わざわざ窓を開けて覗き込む片瀬に、今度は真琴が苦笑する番だった。
「ほら、やっぱりかっこいいよなぁ」
「潤くんだってイケメンでモテるくせに」



