季節は巡り、真琴は高校三年の受験生。
あの時の蒼人と同じ年齢になっていた。

蒼人は難関と言われる医学部に見事合格した。大学入学と同時に家を出て一人暮らしを始め、滅多に家に帰ってこない。

真琴は医師にも看護師にも他の医療従事者になる気も起きなかった。

唯一趣味と言えるのは本を読むこと。
それを活かした職業を考えた時に、図書館司書という選択肢に思い至った。

国家資格ではあるものの、学生でも受講できる司書講習を受けるだけで誰でもなれる職業。

しかし専門性は高く、利用者にサービスを提供するために、図書館内の本の配列や資料に対する専門知識、情報をサーチする能力などが必要になる。

本に囲まれながら、それらをコツコツ身につけていく仕事は、真琴にとって有意義なものになると考え、実家から通える距離にある大学の文学部を志望した。

二年前の蒼人の引っ越しの日、ずっと顔を合わさないようにしていた二人も挨拶を交わした。

あの日も外は雨だった。
濡れないように真琴を玄関の脇に立たせてやり、蒼人は行ってきますと告げて妹の髪をくしゃりと撫でた。

その手は雨に濡れていたのに温かく、涙が滲むのをぐっと堪えたのだった。



正月は親戚揃って真琴の大学受験祈願に近くの神社へ初詣に行った。
そこで形だけ学業成就のお守りを買ってもらったが、身につけていようとは思えなかった。

医学部や看護学科に進まないと知った両親の反応は薄かった。
さほど真琴には期待していなかったとありありと見せつけられたようで、ホッとした反面寂しくも感じた自分に驚いた。