「……ごめっ」

まともに謝れないまま、唇を噛みしめて蒼人の部屋を出た。

部屋に戻って頭から布団をかぶる。

どこにもぶつけられないやるせなさを叫び、声を大にして涙を流すことで自分を解放したいのにそれが出来ない。

壁一枚挟んで蒼人がいる。
声をあげて泣くわけにはいかない。

枕の端を噛んで必死に声を抑える。それでも涙は溢れて止まらない。

噛み締めた唇は切れて血が滲み、喉の奥が焼け付くように痛む。


決死の覚悟を聞いてもらえなかった。

そのことが真琴の心を粉々に砕けさせてしまった。

どこかで慢心があった。

想いを受け止めてもらえなくとも聞いてくれるだろうと。
気持ち悪いと拒絶されることはないだろうと。

『約束。ずっと一緒だよ』

小さな頃の蒼人の声が傷心の真琴を苛む。
それはきっと「家族」だから。
その一線を超える言葉を聞いてしまえば、もう一緒にはいられないから。

だから自分のこの想いは…言葉にのせる前に打ち捨てられてしまった。
他でもない、長年想い続けてきた蒼人によって。

バチが当たったのだろうか。

渡されず邪魔されていた手紙の子たちと同じように、届かなかった自分の気持ち。
言わせてもらえない想いは、どう消化したらいいのか。

外で冷たく降り続ける雨と同じように、真琴の涙も止まらなかった。