今さらなのは重々承知ではあるが、けじめをつける意味でも真琴はこの重いクッキー缶を無視することは出来ずに持ってきた。

「あおくんが中学卒業直前に初めて預かった時のから…全部ある」
「そ…んな前の…」
「…ごめん」

もう三年も前のものを今更もらったってしょうがないのはわかっている。
この手紙を書いた人だって、今はもう他に彼氏がいるかもしれない。

静まり返る室内に、強くなってきた外の雨の音が響く。
まだ五時だというのに外は真っ暗だ。

蒼人は手紙の入った手元のクッキー缶をまじまじと見る。
ひとつとって裏返すと、知らない名前が書かれていた。

「これ…今まで…」
「…渡せなかった」

ついに言うべき時が来た。
真琴は覚悟を決めて話そうと口を開いた。

「あおくんを簡単に好きだっていう人たちがずるいって思って。渡したくなかった」
「……」
「ただ同じ学校なだけ、ただ同じクラスだっただけじゃん。私は、私のほうがずっとあおくんのことを知ってるのに」
「…まこ」
「その手紙書いた誰よりもずっとっ!私の方があおくんのこと」
「真琴!!」


肩を掴まれたまま大きな声で名前を呼ばれ、真琴は口を噤まざるを得なかった。

蒼人の表情は厳しいものだった。
目を細め、何かを考えるような顔。

真琴の瞳も潤んでいる。
だがそれが乾きそうなほど真っ直ぐに蒼人を見つめていた。