その日の夕方。
真琴が帰ると玄関には既に蒼人の靴があった。
階段を上がって自室へ入り、クローゼットに眠っていたクッキー缶ふたつを取り出す。
今まで預かっておきながら渡さなかった手紙の数々。
きのう慌てて一枚だけ渡してしまったが、出来ることなら蒼人の目に触れないようにしておきたかったもの。
『もしまこが犯罪者になったって嫌いになることはないよ』
和哉の言葉が蘇る。
もしも私が…血の繋がっている兄を好きだと言ったら。
そう言葉に乗せることは出来なかった。
言ってしまえば後戻りは出来なくなると思った。
それでも――――言ってしまおうか。
真琴は決意していた。
今まで幾度となく考えてきたこと。
兄妹だから。
血が繋がっているから。
そんなありきたりで無意味な理由ではもう自分の想いを殺せないほど、心は蒼人に傾いている。
どうなっても後悔はしない。
何も言わないままでいるのは苦しくて仕方ない。
『家族みたいなもんなんだから』
『蒼人だって一緒だよ』
何も言っていないのに、何もかも見透かしたようなことを言う。



