しかし和哉はそうしなかった。
悩んでいる妹同然の真琴に、目を覚ませと言うことが出来なかった。
自分も昔、こうして保健室で話を聞いてもらった。
否定しないでいてくれることが、どれだけ励まされるか身をもって知っている。
高校生は子供ではない。
こういうことは自分で決着をつけるものだと思った。
肩にもたれかかっていた真琴は頭を起こすと、食い入るように和哉を見た。
「そりゃそうだろ?家族みたいなもんなんだから」
「家族…」
「まこんとこのおじさんもおばさんも」
「…そうかな」
両親が何があっても自分の味方だという話に素直に頷けない。
その環境や胸の内がわかるだけに、和哉は少しだけ顔を顰めた。
「蒼人だって一緒だよ」
やはり蒼人の名前が出ただけでピクリと反応してしまう真琴。
和哉はわかりやすさに苦笑しつつ、道ならぬ恋に片足を突っ込んでしまっている可愛い従妹を思って胸が痛くなった。
「…ありがと、かず兄」
「どうすんの?」
この先どういう道を選択するのか。
止めてやりたい気もしたが、見守ってやりたい気もする。
自分でも珍しく心配げな声が出たと少し驚いた。
「うん、大丈夫。三限は出るよ」
「へ?…あ、あぁ。そっか」
どうするの問いに対する答えはわざとなのか、それとも。
真琴は曖昧に微笑んで保健室をあとにした。



