「あの、これ……っ!」

顔を真っ赤にして差し出されたラブレターを黙って見つめる。
真琴(まこと)は読んでいた文庫本から顔を上げた。

今年に入って三つ目。まだ新学期が始まって一週間も経っていない。
冬休み前後で何枚もらったか、もう数えることをやめた。

真琴がうんざりしながら無言で受けとると、手紙を渡した女子生徒は涙目でありがとうと告げて去っていった。

「モテるな、羨ましい」
「潤(じゅん)くん、嫌味?」
「ははっ、そんな顔すんなよ」

これらは当然ながら総じて真琴宛てではない。
彼女の兄、この高校の生徒会長宛てだった。

「自分で渡せばいいのに」
「そんな勇気ないんじゃね?」

だったら渡さなきゃいいじゃんと心の中で毒づきながら、預かった手紙を文庫本と一緒に鞄にしまう。

「だいたい受験前に告白するなんてどうなの」

共通テストはもう来週末に迫っている。
苛ついた声を隠さずに言えば、小学校からずっと一緒の親友である片瀬が苦笑しながら数多の女子生徒を庇った。

「だってもう三年生はあと二ヶ月で卒業だよ? 焦ってんだよ」
「焦ってる割には勇気なし?」
「憧れの生徒会長相手に直接なんて、よっぽど自信がないといけないよ」
「ふーん」