Chapter14 ホワイトホール

翌日から、特におかしくなっていった。目に見える変化もあれば、私の感覚的なものもあった。ただひとつ分かっていたのは、これ以上ここにいてはいけない気がする、ということ。
「優奈ちゃん!あそぼ!」
「瑠夏ちゃん…ごめんね、今日は外せない用事が」
「そんなの放っておこうよ。私たちと一緒だよ」
違う。瑠夏ちゃんは、こんな気味が悪い雰囲気を醸し出さない。
「優奈さん。ここには甘い食べ物がたくさんあるそうですよ」
「ごめんね咲也。お腹いっぱいなんだ」
「一緒に食べましょう。大勢の方が楽しいですよ」
咲也も、そんな薄っぺらい理由で誘ったりしない。それに、今まで大勢でいたことなんて一度もない。
「優奈。これからも一緒だ」
「翔、あなたとはいられないんだよ」
「何を言ってる?お前の家はここだろ?」
「…ごめん」
翔だって、軽々しくそんな言葉を言うひとじゃない。
ねえ、本当にみんな…

「優奈ちゃん!」
「夏海さんっ」
「間に合ったか」
慌てた様子のふたりが出迎えてくれた。さっきから空が暗く、重たくなり始めているのに気付いてはいたから、嫌な予感はしていた。
「あいつら、この世界と心中するつもりだ。俺らに気付いたな」
「そんなっ…」
「優奈!」
そのとき、翔が後ろから追ってきた。もうすぐで追いつかれる距離。ふだんなら…
「急ぐわよ。こっち」
「…翔っ」
夏海さんに連れられて、花屋の奥に入る。奥には、いつか見た賽銭箱があった。
「あ、あの。最後にひとつ…」
「ひとつだけだぞ」
「私が会ってきたみんなは、どうなるんですか」
「…運が良ければ、会えるかもしれないわ」
つまり、翔やみんなに会えるのは、これで最後かもしれないということ。せめて、最後に一言くらいは言いたいけれど…
「あとどれくらい持つ?」
「10分くらいなら…」
「じゃあ、タイムリミットは5分だ。話したいこと、早めにまとめてきな」
「…はいっ」

表に出ると、翔が私の方を向いて立っていた。翔なのに、翔じゃない。なんで気付けなかったんだろう。
「優奈」
「ごめんね、急に」
「この数ヶ月、騙して悪かった」
「え?」
「本当は知ってる気がしていた。でも、意味が分からなかった。今でも分かってない」
目に涙を浮かべているけれど、本当なのかどうか…
「本当の世界は、綺麗なのか?」
「…どうかな。違う意味で面倒かも」
「…ここは、みんなの幸せが詰まっていた。だから、壊された。これまで亡くなった、数えきれない人々に。幸せは、だれかに奪われるらしい」
「……」
正直、何が何だか私自身もよく分かっていない。短いようなこの数ヶ月は、本当にあったのだろうか。本当に、私はここで過ごしていたのだろうか。
「私は…ここにいたのかな」
「どうかな」
「ねえ、また会えるよね」
「…迎えに行く。なんでもするさ」