結局そのひとが怖すぎて、校門まで出てきてしまった。
「どうしよう…」
このまま、翔が来るまで待つ?でも、あのひとがいるかもしれない。見つかったら、何か言われるかもしれない。翔のそばにいたら、確実に何か言われるかも。
「離れなきゃいけないかなあ」
自分で言っておきながら、胸が痛んだ。…何様のつもりなんだろう。ただ、席が隣というだけなのに。
帰り道は、いつもより遠く感じた。


「ただいま」
「おかえり!今日はな、ラクレットチーズをもらったから、いろんなものにかけて…」
「ごめん、今日お腹痛くて。あとで食べるよ」
「そ、そうか。…まだ怒ってんのかな」
ふすまを閉めて、荷物を置いて、布団に寝転がる。いつもの布団なのに、今日はやけに違う感触がする気がする。
おかしいな、前までこんなに気持ち悪くなること、なかったのに。泣きたくなることなんて、ほとんどなかったのに。今日は何があった?瑠夏ちゃんと咲也に会って、翔とようやく話せたと思ったら、よく知らない人に脅されて。
「今月は…重いのかな。やだなぁ」
そうだ、きっとそういうことだ。だって、私はこんなに弱くなかった。すぐ泣きたくなるようなひとじゃなかった。
「こわい…」
何も食べずに終わった。


「優奈、今日は休むか?」
「…うん」
「熱は?」
「なかった」
「そうかそうか。じゃあ…えーと、ここにおかゆがあるから。フルーツも多少残ってるし、好きに食べなさい」
「…ありがとう。ごめんなさい」
どうにも朝から体が重くて、本当に腰が重いし、お腹も痛いし、時々吐き気もするし。
「謝るな、体が壊れる前のサインだ。休むのは当たり前だからな」
「…うん」
「何かあったら、職場に電話してな。それじゃ、ゆっくり休めよ」
「ありがとう…」
お父さんを見送ってから、また横になる。腰が痛いから、どうにも寝つけない。でも動く気力はない。でもお腹は空いてくる。ほんと嫌になるし、泣きそうにもなる。
「やだなぁ…」
こういうとき、だれかが隣にいてくれたら。たとえば、瑠夏ちゃんとか。あとは…
「翔……」
翔に来てほしい。隣にいてほしい。身の回りのことをしてくれるとか、そんなのじゃなくてもいいから。ただ、手を握ってくれるとか。やさしく抱きしめてくれるとか。
「翔っ……」
また泣きそうになる。さっきからこれの繰り返しだよ。
「ほんと、嫌になる…」