「続いて、2年4組の皆さんによる『恋する乙女と青年』です。ある日森を歩いた乙女は、狼と出会い、恋に落ちました。禁忌の恋とされるこの物語は、どんな結末を向けるのでしょうか」
いつの間にか大そうになっていたあらすじを終え、ステージを照明が照らす。さあ、夢の時間だ。


男性A「おい!ユウナがいないぞ!」
男性B「あっちも探せー!」
女性A「ひょっとして、森の中じゃ…」
村長「よし、男何人かで森を探索してこい」
男性A&B「ラジャーっ」
女性B「どうしましょう。あそこには、おぞましいオオカミがいますわ」
女性A「きっと大丈夫。そう祈るくらいしか、できないけどね」
村長「大丈夫だ…ああ、大丈夫」

舞台は森へ移る。この森の中には、キャンプ場やバーなどの幅広い施設が点在するが、夜に出歩くと危険だらけの森となる。
男たちは、バー『Ka-Ma』で情報を集めることにした。
男性A「かまちゃん!」
かまちゃん「あら、どうしたのこんな時間に」
男性B「ユウナ、この辺で見てないか?」
かまちゃん「アタシ見てないわ…なに、いなくなったとか?」
男性A「アタリ」
かまちゃん「も〜、変なところでカンが当たるのヤだわぁ」
男性B「もしよかったら、探すの手伝ってくれない?」
かまちゃん「捜索依頼ね。払うもんさえ払えばね」
男性A&B「いくらだ?」
かまちゃん「まあ、5万ずつってところかしら」
男性A&B「えっ」
かまちゃん「とか言っても払えないのは分かってるわよ。いいわ、これまで来てくれたぶんのお代で許してあげる。ふたりともお得意さんだしねぇ」
男性A「助かったよ!」
男性B「かまちゃんがいたら、百人力だぁ!」
かまちゃん「大げさねアンタたち」

男たちとかまちゃんで、森の中を捜索することになった。が、一向に見つかる気配はない。そうこうする間に、日が暮れてきた。あまり時間はない。
かまちゃん「まずいわよ、このままじゃ…」
男性A「ユウナが…」
男性B「絶対見つけなきゃな」

いくら探しても見つからず、気づけば夜の静かな森へと変わっていた。あたりは冷たく、月が綺麗に見えていた。
そのとき、男たちが大きな声で叫んだ。
男性A&B「かまちゃーん!!!」
かまちゃん「どうしたの!?」
男性B「ゆ、ユウナ…」
かまちゃん「ユウナちゃんが?」
男性B「見つけたっ」
かまちゃん「わかった、今いくわ」

かまちゃんと男たちは、必死で看病をするユウナの姿だった。ユウナは、大怪我をした狼の手当てをしていた。
ユウナ「あ、あれ…みなさん。どうなされたのですか」
かまちゃん「どうもこうもないわよ…!こんなに心配かけて!」
男性A「お、おい。その狼は…」
ユウナ「大丈夫です。この子は…とても優しいおおかみさん」
男性B「夢を見てるんじゃないんだ、ユウナ。元気になったら、襲われるかもしれない」
かまちゃん「そうよ。あんまり悪いことは言わないから、早めに帰りましょう」
ユウナ「なら、先に帰っていてください。私なら、大丈夫ですから」

そのとき、狼がゆっくりと立ち上がった。どうやら手当てのおかげで、歩けるくらいまでにはなったらしい。
狼「…心配をかけた」
男性A&B「しゃべった!?!?」
狼「人の言葉を話す動物は多い。イヌ科、ネコ科の動物は特にな」
かまちゃん「ほんとに…喋るのね……」
狼「ああ。人間の前で話すと疎まれるがな」
男性B「ほえぇ…」
男性A「ほあぁ…」
かまちゃん「ちょっと、アンタたち。なに腑抜けた声出してんのよ」
ユウナ「この子は…心優しいおおかみさんです。危害を加えるつもりはないと」
かまちゃん「だとしても、そのまま村に帰るなんて、できないわよ」
ユウナ「えっ…」
かまちゃん「本当は別の場所に住んでたの。それを無理やり共存するだなんて、無理にも程があるわよ」
狼「俺のことはいい。こいつの言う通り、元は別々に住んでいたんだ。この方が都合がいい」
ユウナ「でも…」
狼「ユウナ、か。いい名前だ。大事にしろ」

そう言って、狼はユウナの手にキスをした。気付いたときには、狼はどこにもいなかった。驚きを隠さずにいながら、その日はみんな帰った。
女性A「どこ行ってたの!?」
女性B「心配したのよ…!」
ユウナ「すみません。どうしても外せない用事があって」
村長「狼とは、会わなかったか?」
かまちゃん「会ってたら、今ごろここにいないわよ」
ユウナ「かまさん。ありがとうございます」
かまちゃん「もう、その呼び方やめてって。何回言ったら分かるのかしら?」
村長「まあまあ。今日は、もう遅いからゆっくり休むといい」
男性B「つかれたぁ〜…」
男性A「こりゃ明日筋肉痛だな」

月日は流れ、3年後のある日。ユウナはふと不思議な力を感じて、また森の中へ踏み込んでいった。力を感じるがまま、どんどん歩いていくと、そこにいつか会った狼がいた。狼は、じっとユウナを見つめて、ふたたび手にキスをした。
ユウナ「カケルさん?」
カケル「ああ。また会えるとはな」
ユウナ「なんだか、ここに来たくなってしまいました」
カケル「奇遇だな。俺もだ」
ユウナ「あの時より…大きくなりましたね」
カケル「俺たちは成長が速い。それに、俺は毎日走ったり何かしらはしているからな」
ユウナ「なんだか、子どもみたいですね」
カケル「よく言われる」
ユウナ「…ねえ、カケルさん」
カケル「さん付けじゃなくていいし、敬語も外そう」
ユウナ「でも」
カケル「俺のことは嫌いか?」
ユウナ「いいえ…そ、そういうわけでは」
カケル「なら大丈夫だ。気楽に、な?」
ユウナ「…うん。ねえ、カケル」
カケル「どうした?」
ユウナ「私、どうしてここに来たんだろう」
カケル「さあな。でも、さっきのユウナの言葉…俺も同じだ」
ユウナ「ここに来たくなった?」
カケル「ああ。それに、あの日から数年、ずっと忘れられなかった」
ユウナ「え?」
カケル「お前のこと、ずっと考えてた。ずっと、頭から離れなかった」
ユウナ「へっ…」
カケル「ユウナ、好きだ。あの日から、ずっと」
ユウナ「っ…」
カケル「俺と、一緒に生きていかないか?」
ユウナ「うんっ…」

こうして、ユウナと狼はだれも辿りつかない、森の奥の奥へ行き、その奥で静かに暮らした。