Chapter12 恋する乙女と青年

今日から6月。文化祭があと数日で催される。屋台、ステージ、演劇、イラスト…さまざまなものが立ち並ぶ予定。私のクラスは、演劇をするらしい。私がいるから、オリジナルの脚本を書いてくれるとか。
…私がいるからって、なに?
「セリフは覚えたな?」
「うん…でも、あれ」
「我慢しろ」
物語としては『ある狼が人間の女性に恋をした。しかし人間は狼を忌み嫌っているから、二度と話すことはできないと思っていたが、狼と同じ気持ちだった女性が村を抜け出し、狼と共に暮らした』というお話。
問題は、衣装だ。ふつうに可愛い服を着させられると思っていたのに。
「ダンスパーティじゃあるまいし…」
「お互いさまだ」
私はまだ100歩譲っていいとしても、狼役の翔の衣装が…
「ほとんど上半身裸って…」
「おかしいな。何度も抗議したんだが」
「断られた?」
「『会場のみんなに、その筋肉見せつけてやれ』ってさ。どういうつもりだ」
加えて、翔は狼。耳を用意しなければいけない。そのために用意されたのが…
「まさか、この歳でこんなのをつけるとはな」
「…ケモ耳カチューシャ…」
落ち込む翔を見て、目も当てられなくなってくる。
「し、仕方ないよ。翔が一番似合うんだって」
「…いやだ」
「カッコいい翔だから、10割増しで見えるんだと思うよ」
「そんなことないだろ」
「私たちはなんでも屋。なんでもやるの」
「…分かったよ」
さすが、物分かりが良くて助かる。

その日のリハーサルはあっという間に終わった。セリフも完璧、衣装もバッチリ、あとは当日を待つのみの状態。…翔以外は。
大丈夫かなあ…。