席について、ふと隣を見る。ずいぶん青年になった翔を見て、成長したんだと思ってしまう。それに、制服だから…余計に、その、何というか。
「…どうした?」
「な、なな何でもない」
「顔赤いぞ。熱でもあるか?」
「ちちちち、近いよ、翔」
気付いたら、視界いっぱいに翔の顔が映っている。いつの間にこんな『青年』になったんだろう…。
「迎えに来たんだか、来られたんだか。どっちなんだろうな」
「…私が迎えに来たのかも」
「言ってくれるな」
笑った顔は、あの時の翔の面影がかなり残る。白い歯を見せて、微笑む。
「にしても、その…あれだな」
「?」
「か、か…かわ……何でもない」
「な、なに」
「…………可愛い」
「……バカ言わないでよ……」
「センセー、後ろがいちゃついてまーす」
「おー、時代がたがえば刑に処してたな」
なんで…?翔、そんなの言ってこなかったじゃん…。ていうか、翔も顔真っ赤だし。
「どうして、そんな急に…」
「…ようやく言えると思ったんだ。今まで我慢してた」
「…なにを?」
「さすがにここで言うのは無理」
「センセー、俺たちもう出るわ!」
「そうしよそうしよ」
「おじゃま虫は出ていこう」
「紹介………」
「…そうだな。お前ら、用事済んだら早めに来いよ」

行っちゃった。
「…なんでみんな行ったの?」
「さ、さあな」
さっきまで賑やかだった教室が静かになっているのは、かゆい感じがする。
「で、なに?」
「…ず、っと…その」
「ずっと?」
「……ゆ、雪の気持ち、分かる気がする」
「はい?」
どういうこと…?雪の気持ち…まさか。
「あんた、雪の二の舞になろうってこと!?」
「ち、違うそうじゃない!…雪って、あんたのこと狂うくらい好きだったんだろ」
「そう、みたいだったね」
実際、私もそれは薄々気付いてはいた。友達とは思われてないような気はしていたけど、言葉にするのが怖かった。
「あいつは雪。なら、俺は雪解け水かな」
そう言って、私の手を取った翔は…
手に口をつけた。
「へへっ」
白い歯を見せずに、翔はにやっと笑う。
「へっ…」
「遅れるな。一緒に行こう」
「…う、うんっ…」
何これ。なんで、こんな熱いんだろう。なんで、こんなにドキドキしてるんだろう。顔も見れない。ただ、少し先を歩く翔の背中しか見えない。ちょっと前まで、少しだけ下を向けば顔が見えていたのに。今じゃ見上げないと髪の毛すら見えない。背中も大きい。
「…いじわる」
「忘れたか?俺はなんでも屋。なんでもするんだ」