「これから、どうするんだ?」
またあの場所へ向かうとしても、鈴はさっきからずっと黒ずんでいて使えない。やっぱり、得策じゃなかったんだ。
「咲也、どうにかならないか?」
「…ならない訳ではありませんが、リスクが」
「多少のリスクはみんな分かってる」
いつもの考えるポーズをしたのち、彼は渋々口を開いた。
「あそこは、死んだ人間の魂が一時的に集う場所です。悪い空気はすぐ入るし、すぐ出ていく。逆も然りです」
「どういうことだ?」
「生身で入った人間が、生きて帰れる場所ではないんです」
「私たちは、例外だったの?」
「はい。正直、驚きました。夜はとくに流れが激しいのに、微動だにしないおふたりが居たから」
あのときは、全くと言っていいほど風とかも吹いていなかった。ただ、悲しい空間が広がっていただけ。
「で、でも待って。じゃあ、雪はもう死んだってこと?」
「ううん。生きてるよ」
「え…」
「あの子、小さい頃から何に使うのかよく分からないものとかの扱いが、すごくうまかった」
扱いが分からないもの…?どんなものがあったっけ。
「鈴とかにずっと話しかけてたかな」
鈴…?
「ねえ、ひょっとして…これ?」
「ああ、こんな感じだったと思う。でも、私にはよく分からなくて」
雪もやはりこの鈴を持っている。小さい頃からというなら、扱いは慣れていそうだ。
「急にいなくなった時は焦ったっけ。『おばあちゃんを見た』とか」
「それって、亡くなった人か?」
「たぶん。私は、向こうの事情はあまり知らないけど」
もう何年も、あの奇妙な場所に行っている…?
だとしたら…
「ねえ、瑠夏ちゃん。その場所に行き始めてから、雪に変わったところとかない?」
「うーん……。あ、たしかに落ち着いた雰囲気になったなあとは思ったかも。成長したのかなって思ってた」
かすかに掴めてきたかもしれない。雪にその意思がなくても、人格がまるごと変わってしまうような何かがあるんだ。
「まさか、思念体が雪さんに入り込んだとでも…?」
「確証はないけどね。いま思いつくのは、それくらい。ねえ咲也、死んだ人ってどうなるの?」
せっかく掴んだ小さい希望。手放したくはない。藁にもすがる思いで、彼の返答を待った。
「魂は、宇宙を広く漂い、そしていつかどこかに還ります。それはこの星や、別の星かもしれない。だけど、循環があることは確かです。…それが、なにか?」
「ううん。ありがとう。問題は見えてきた。次は、もう一度あの場所に行きたいんだけど…行けるかな」
当時のことを知る何かがあれば…
私たちにも、まだやれることはある。