「よし、荷物を整理していこう。まずは各々の荷物からいこうかな」
「部屋はどこにするの?」
「どこでもいい。ど真ん中の部屋でもいいぞ!」
見ると、囲炉裏がある。明らかに自分の部屋にするには不向きな部屋だ。さっきの私の発言を覚えていないのだろうか、『ふつうに暮らしたい』という言葉を。だから、縁側に程近いところにした。
「よし、じゃあお父さんはこの広い部屋にしようかな。亭主っぽくていいだろ!」
この様子だけを見ると、本当に父親なのかどうかを疑ってしまいそうだ。これでも一応、父は普段静かな人なのだが。
「そんなことしてたら、いつまで経っても終わらないよ」
「…さすが、万由子に似てしっかり者だ」
たしか、母の名前が万由子だった気がする。写真で何度か顔を見たけれど、女でも惚れそうなくらい綺麗な人だった。私は全くその遺伝子を受け継ぐことはできなかったけれど。
「お母さんも叱ってるよ。『しっかりしなさいよ』って」
「万由子が本当に言いそうな文句だよ…」
どうやら、考え方の遺伝子は受け継げたらしい。

そうこうしているうちに、ふと気になった。この村に学校はあるのか。見たところ通学路らしきものも見当たらなかったし、子供の姿も見かけなかった。もし隣町まで通学してください、なんて言われたら面倒だなあ、と考える。でも、嫌な予感だけは当たるのがオチなんだ。
「ここから西に行くと芦田町ってとこがある。そこに編入するんだ」
「隣町…」
実を言うと、いつも引越しのことは父に任せきりで、その時ついでに学校のことも任せている。だから、編入試験だけを解いているのが現状なのだ。私には手続きだの何だのは未だによく分からない所が多いから。
大人になりたくても、大人になりきれないのはまだ変わらない。
「ここよりもずっと都会とは言っても、どんぐりの背比べなんだけどな」
つまり、あまり変わらないということ。
「要するに、田舎の学校ってこと?」
「そういうこと。ああ、もちろん向こうにも神社があるから、お参りするならしてもいいぞ」
「お参りってそんなするものだっけ…」
学校のことを調べるついでに、その神社のことも調べることにした。すると、引っかかることがあった。芦田町にあるはずなのに、『河津神社』とあるのだ。
「お父さん。なんでここに河津の名前があるの?」
「うーん…そればっかりは分からんなあ」
父でも分からないと来た。でも私はこの村で博識そうな人は…でも、べつにそうまでして知りたいものでもない。また今度、調べよう。