「……聞いているのか」
 「はい、聞いています」
 目の前でため息をつかれる。
 私の方がため息をつきたい。
 「とにかく、いくら地毛でも金色は周りの生徒に悪影響なんだ。黒染してはもらえないか?」
 検討だけします、とカバンを掴んで背を向ける。
 私-小野(おの)(るい)は母イギリス人、父日本人のハーフ。
 髪色が母似で金色のため、1年の時から黒染を頼まれている。
 「失礼しました」
 職員室を出ると男の人とぶつかりそうになる。
 「おっと、ごめんね」
 ネクタイの色から先輩らしい。
 「すみません」
 「その髪色、地毛?」
 思わず下を向く。
 昔からよく聞かれる質問。
 イギリスにいた時は金色も普通だったのに。
 「イギリス人の母譲りなんです」
 この答え方もいつからか当たり前になった。
 染めてるでしょ、なんて言われるのがオチなんだけどね。
 「美しい髪だね」
 思わず顔を上げる。
 目の色が綺麗な金色だった。
 初対面なのに、この人に会ったことがある気がする。
 どこかで同じことを言われた気がする。
 親戚とか、先生とかじゃなくて、もっともっと昔に。
 ―デジャブ。
 デジャブにはいろいろな諸説があるが、その中の1つに“前世の記憶”なんていうものがあるらしい。
 「もしかして指導されてたの?」
 「まあ……去年からずっとですけどね」
 僕も目の色で1年の時からずっとね、と苦笑いをした。
 カラコンを入れていると思われているんだとか。
 「名前なんて言うの?」
 「累です。小野累」
 僕は本園(もとぞの)(せい)よろしくね、と微笑む。
 「僕も今から指導なんだ。お互い大変だね」
 そう言って職員室の扉に手をかける。
 やっぱりこの人のことは知っている気がする。
 「あの」
 この質問はしなくちゃいけない気がする。
 聞け、と私の中にいる会ったこともない私が叫んでいる。
 金色の瞳を見据える。
 「前世って信じますか?」