同じ色、違う姿

 それからの時間はあっという間で、気が付いたら収穫祭当日の夜になっていた。
 「じゃあ行こうか」
 セイの後ろについて街に向かう。
 街は1週間前に比べて倍以上の人でにぎわっていた。
 「人が多いですね」
 「まあ収穫祭だからね」
 フードを深めにする。
 セイは私を連れて出店を回る。
 「なにか食べる?」
 「あれが食べたいです」
 いいよ、と私の手を引いて出店に向かう。
 「これ1つ下さい」
 セイが買ってくれている間に周りを見回す。
 この感じ、すごく懐かしい。
 両親と手を繋ぎながら歩いたのが懐かしい。
 「はい、どうぞ」
 「ありがとうございます」
 そしてまた歩き出す。
 「セイは何も買わないんですか?」
 「僕はいいよ」
 そうですか、と食べ始め、そしてまたセイの後ろをついて歩く。
 「セイじゃないか」
 「おう、お疲れ」
 前に会った大佐とは違って、ため口で話してる……同僚だろうか。
 「どけ!」
 フードを深めに被っていたため、前から走ってきた人影に気が付かなかった。
 その勢いのまま私にぶつかる。
 「うわっ」
 そのまましりもちをつく。
 “視界が、広くなった”
 「金髪……?」
 「異端者だ!つかまえろ!」
 セイの同僚が私に手を伸ばす。
 その手を払いのけ、走り出す。
 セイの近くにいたけど、きっと一緒にいたとは思わないだろう。
 「セイ!お前も手伝え!」
 遠くからそんな声が聞こえる。
 『殺されるならセイに殺されたい』
 そんな考えはすぐに浮かんで消えた。
 とにかく今は何とか遠くへ逃げなきゃ。
 フードを被り直して人ごみを逆走する。
 人にぶつかってバランスを崩す。
 「危ねえな!」
 そんな叫びに振り返る間もなく立ち上がって走り去る。
 
 だいぶ走って街を少し外れたところにたどり着いた。
 セイはどうしているだろうか。
 私を役人として追いかけてくるのだろうか。
 「アル」
 振り返るとフードを深く被ったセイがいた。
 「見つかっちゃいました。まさかぶつかられるとは思ってなかったので油断しました」
 「僕も油断した。ごめん」
 なんでセイが謝るんだろう。
 なんだったらここで殺してくれてもいいのに。
 「こっちに逃げたぞ!異端者はアル・ロノアだ!」
 「逃げよう」
 セイが私の手を引いて走り出す。
 「離して下さい!セイが危ないです!」
 叫ぶのにセイは聞く耳を持たない。
 それどころか走る速度は上がっていく。
 「セイ!」
 「離さない」
 突然声を発せられたことに驚く。
 「僕がキミを殺さなかったのにはちゃんとした理由があるんだよ」
 思わず息を飲む。
 「キミの髪が美しいと思ったのは本当だ。そして、キミの髪が死んだ従兄弟……カランに似ているからだよ」
 ああ、あの子はカランって言うんだ。
 「そんな事だろうと思いましたよ」
 「ばれてたか」
 そう微笑んだセイは寂しそうだった。
 気が付いたらセイと出会ったあの狭い路地に逃げ込んでいて、行き止まりだった。
 後ろからは役人が追いかけてきている。
 咄嗟に置き去りにされていた酒樽の影に2人で隠れる。
 「アル・ロノア!ここは完全に包囲されている!」
 もう、逃げられない。
 「私に策があります」
 「本当?」
 はい、とうなずいて見せる。
 でもその前に一つだけ聞きたい。
 「ねえセイ、来世って信じますか?」
 セイの目を真っ直ぐ見据える。
 「信じるさ。何度だってキミと出会って手を差し伸べよう。アルは信じる?」
 やっぱり私はこの金色の瞳が好きだ。
 「私は、信じたくなりました」
 セイに優しく微笑んだ。
 「私の策には、セイの協力が必要です」
 合図をしたら酒樽の上に膝で立つようにお願いをする。
そうして私は手でセイの口を塞ぎ、隠し持っていた果物ナイフを容赦なくセイの首に突き立て、合図をする。
 「動かないでください」
 目を丸くしたセイに囁き、酒樽に2人で登る。
 そして、声の限り叫んだ。
 「私は、アル・ロノア。この役人は人質だ。解放してほしければこちらの要求を飲め!」
 役人たちが騒ぐ。
 まさか役人が弱っちい異端者に人質として捕まっているとは思わなかったのだろう。
 「要求を聞こうじゃないか」
  先週会った大佐が前に出る。
 「この街の異端者を捕らえる政策をやめさせろ!私たち異端者も人間だ。死にたくない。私を殺すのは勝手にしろ。だが、今後一切他の異端者と呼ばれる者たちを捕らえ、殺すことは許さない」
 叫んでから私は馬鹿だなぁと思った。
 こんなちっぽけな叫びが届くわけがない。
 この先も異端者たちは殺され続けるだろう。
 そして、私もここで殺される。
 「分かった。その要求を飲もう。だから、人質を解放せよ」
 「……いいでしょう」
 そして私は役人に背を向け、セイの喉元にナイフを振りかざす。
 その瞬間、目の前に赤い花が散った。
 重力に逆らうこともなく2人で酒樽から落ちる。
 「アル!」
 この赤は私の赤だった。
 もちろん、本気でセイを刺そうとしたわけではない。
 こうすれば、セイは被害者。
 私を匿っていた事実は隠蔽できる。
 「なんであんな真似を」
 「何度でも手を差し伸べてくれるのでしょう?」
 セイの目にはいっぱいの涙が溜まっていた。
 「あなたに泣き顔は似合いませんね。笑ってくださいよ」
 金色の瞳の涙が私の顔に落ちる。
 「大丈夫です、また出会えます」
 「ダメだ……逝かないで」
 視界がぼやける。
 そろそろ時間だ。
 「セイ、笑ってください」
 私はセイの笑顔がいつの間にか大好きになっていたんだ。
 最期はセイの笑顔が見たい。
 セイが涙を拭いて精一杯笑う。
 ああ、やっぱり金色の瞳には笑顔が似合う。
 「セイ、楽しかったですよ。色々ごめんなさい……ありがとう」
 意識が遠く遠く離れて、見えなくなった。