「似合う服が見つかって良かったね」
 帰り道、両手にいっぱい服が詰められた紙袋を揺らしながらセイは笑った。
 「そうですね。久しぶりに外に出られましたし、満足です」
 そうかそうか、と上機嫌なセイ。
 そして、おもむろに口を開いた。
 「ねえ、来週の収穫祭なんだけどさ」
 「見回りですよね」
 さえぎって言葉を発する。
 これ以上は幸せにはなりたくない。
 「実は、非番なんだ。一緒に行かない?」
 「行きません」
 振り返ったセイは悲しそうに笑っていた。
 そんな顔、あなたには似合わないのに。
 「なんで?」
 「本当は行きたいです。今日買ってもらった服でおしゃれをして、参加したいです」
 顔を上げる。
 しっかりとセイの目を見て言わなくちゃ。
 「だけど、セイをこれ以上危険にさらす事は出来ないです。私はセイの帰りを待って、たまーに外に出るくらいが幸せなんです。何度も危険を冒してまで外に行きたくない」
 これは私の本心だ。
 曲げられないし、曲げたくない。
 「断られるとは思ってたけど、そんなにしっかりとした理由があるとは思わなかった」
 「だいぶ失礼ですよ、それ」
 気が付くと玄関の前だった。
 扉を開ける。
 「変わったね」
 「良い意味で、ということで受け取っておきますね」
 扉が閉まったことを確認してフードを取り、夕食の支度を始める。
 「まあ、キミに断られようと断られまいと連れて行くよ」
 思わず顔を上げる。
 セイの目には冗談の色が全くなく、真剣だ。
 「どうしてそこまでして?」
 セイは私のことがわかっていても、私はセイのことがわからない。
 私と暮らす本当の理由も、なにを考えているのかも。
 「キミには、異端者なんて言葉は似合わない」
 セイの目が私の目をとらえる。
 「キミには昼間、普通に街を歩いてほしいし、カル叔母さんのお店以外でも買い物ができるようにしたい」
 その金色の瞳は私をとらえて離さない。
 「それに、キミにとっての特別を当たり前にしたいんだ」
 セイの瞳は魅力的で、不思議な力を持っているのではないかと疑うくらい私の目を、思考を、意思を、絡め取って離さない。
 一つため息をつく。
 私は一生かかってもセイだけには敵わない気がする。
 「わかりました。行きましょう、一緒に」
 そう返事をすると、セイはとびっきりの笑顔を作った。
 「出来ました。夕食にしましょう」
 2人揃っての食事。
 セイと暮らすようになってからは当たり前になった幸せ。

 「さて、収穫祭の話をしよう」
 お風呂から上がるや否や、読書をしていた私から本を取り上げて言った。
 「来週ですよ?気が早すぎやしませんか」
 そんなことはない、とセイは腰をかけた。
 「収穫祭は知っての通り、年に1度だけ行われる盛大なお祭りだ。このタイミングでの異端者捕獲は実にたやすい」
 セイは続ける。
 「異端者は収穫祭1週間前から人ごみに紛れて買い物をしている事が多い。だから、役人の見回りも普段の何倍以上も厳しい」
 「つまり忙しくなるんですね」
 この時期が1番ハードなんだ、と肩を落とす。
 確かにここに来る前から、この時期は夜でも役人が多かった。
 出歩けないどころか、うかつに音も出せない状態が1週間ほど続いた気がする。
 「そういうことだから、しっかりと用心してね。あと、無茶は絶対にだめ。僕とキミとの約束だ」
 そう笑って私の頭をくしゃっと撫でた。
 「はい」
 もしも私のせいで彼の身に危険が近づいたとしたら、策はずいぶんと前から考えてある。
 万が一そうなったとしたら、セイの安全が最優先だ。
 たとえ私の命が燃え尽きることになったとしても。
 「約束を破る事になったとしても」 
 そんなつぶやきは星空に溶けていった。