「アル起きて!買い物行くよ!」
 「んんー……」
  昨日は結局、セイと買い物について色々話し合っていたから寝不足。
  時間を確認すると、出発時間まではまだまだある。
 「まだいいじゃないですか。もう少し寝かせてください」
 「だーめ。起きて」
 「嫌です」
 そんな押し問答が続く。
 「早く行こうよ!!」
 「分かりました。着替えるから部屋出て下さい」
 セイを追い出して渋々着替える。
 いつもより30分も早い。
 たまにはそういう日があってもいいかな
 「アルまだー?」
 「もう終わりますよ」
 部屋を出てリビングに向かう。
 いつもは私が朝食を作るのに今日は出来上がってる。
 「早起きしたから作っといたよ」
 「ありがとうございます。いただきます」
 他の人が作ったご飯はこんなにも暖かい味がしたかな……
 「アル、どうしたの?」
 「いえ、なんでもないです」

 朝食も早々に片付けをして、出かける準備をする。
 「これなら頭からすっぽり隠れるよ」
 そう言ってフードの付いたポンチョ型の上着を渡される。
 「ありがとうございます」
 「じゃあ行こうか」
 久しぶりの外に心が高鳴っているのはきっと気のせいだ。
  セイを見失わないように、なおかつ周りにバレないように歩く。
 外は当たり前だけど眩しくて、人が多い。
  前に外に出た時はこんなに多くなかった気がする。
 「セイ、いつもこんなに人が多いんですか?」
 「あぁ、1週間後に収穫祭があるからその準備で人が多いんだと思うよ」
 収穫祭。
  1年間の収穫を祝い、また1年収穫が安定するように願う、言わばお祭り。
 「そんな時期でしたか」
 「そうだよ」
  昔は父と母と手を繋いで出店を見て回ったっけ。
  すごく懐かしくて、思い出す度に苦しくなる。
 「セイじゃないか。今日は非番だろ?」
 突然の第三者の声に驚いて思わずセイの服を掴む。
 「こんにちは大佐。街が賑わっているので外の様子を見たくなりましてね」
  大佐……ということは異端者を捕まえる役人の中でも偉い人。
 ここで私の存在がバレるとセイまで危ない。
 「街は収穫祭の準備で賑わっているからな。ところで後ろの人は……?」
 ああ、まずい。
 「こちらは僕の妹です」
 「妹がいたのか。俺はてっきり異端者のアル・ロノアかと思ったよ」
 なんで私だと思われたんだ。
 「なぜです?」
 心の声を聞き取ったようにセイが聞く。
 「小屋を取り壊しても見つからないし、ちょうど身長もそのくらいみたいなんだ」
  そんな記録までもがリストに?
 「そうなんですか」
 セイの顔は笑っているのに目は大佐を睨みつけているよう。
 「こんにちは妹さん」
 顔を覗き込まれそうになって咄嗟にセイにしがみつく。
 まだ、もう少しだけ生きたい。
 「すいません。こいつ人見知りで知らない人とは目も合わせようとしないんです」
 「そうか。それはすまない」
 ではまた、と分かれる。
 収穫祭は出店が多く、異端者が紛れていることが多い。
 そのため準備期間から見回りの役人は多く、捕まる異端者もまた多い。
 「大丈夫?」
 「すいません、大丈夫です」
 もう少しだから、と笑ったセイ。
 さっきの鋭い目はなく、いつものようにフワッと笑う。
 何を考えていたのか、私には想像もつかない。
 「わっ」
  突然止まったセイに思い切りぶつかる。
  咄嗟にフードが取れないように掴む。
 「ごめん、大丈夫だった?お店着いたよ」
 そこには色とりどりの服が並ぶお店が建っていた。
 「行こう」
 そう言ってカランカランと鈴のなる扉を開け、2人でお店に入る。
 「こんにちはー」
 「セイくんじゃない。こんにちは」
 奥から綺麗なおばさまが顔を出した。
 一応私も会釈をし、セイとおばさまが話し始めたのを横目に店内を物色する。
 色んな色の色んな系統の服が並んでいて、奥には靴もあるらしい。
 メンズもレディースも並んでいて、なおかつ靴も珍しい。
 品揃えの多さはこの街でトップを争えるのではないだろうか。
 その中に紛れて写真立てが置いてある。
 さっきのおばさまが若いときの写真だ。
 12歳くらいだろうか、子供も一緒に写っている。
「アル、こっちおいで。僕の叔母だよ」
「あなたが噂のアルちゃんね。私はカル。よろしくね」
 フードを掴まれて思わずその手を振り払う。
 突然フードを掴むなんて何考えてるの。
 「驚かせてごめんなさい。セイくんから全部聞いているわ」
 その言葉に思わずセイを見る。
 もしこの人が役人に密告していれば私もセイも終わりだ。
 「なぜ相談もなしに話したのですか?」
 「ごめん。でも、この人は絶対に役人に突き出すなんてことはしない」
 「何を根拠に……!」
 セイに掴みかかった反動でフードが取れる。
 でも、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「カル叔母さんの息子……僕の従兄弟は異端者として殺されたんだ」
セイの突然の言葉に電撃が走ったように痺れる。
息子が、従兄弟が、異端者として捕まって殺された?
「じゃあ、あの写真は……」
カルさんが口を開く。
「あの写真を見たのね。あの子が私の息子。今年17になるはずだった。なのに、5年前に役人に捕まって殺されたの。あなたみたいな綺麗な金色の髪をしていたのよ」
私と同い年の、カルさんの息子。
自分の息子が異端者として殺された。
だから役人に突き出さないのか。
「ごめんアル」
だけど、キミには異端者なんて言葉は似合わない、なんてセイは言った。
あーあ、私は本当に幸せだ。
「私もごめんなさい。でもこれからは相談くらいはしてほしいです」
私の言葉にそうするよ、と笑ったセイ。
それを見たカルさんはニコッと笑って
「さあ、アルちゃんに似合う服を選びましょう!私が選ぶわ!」
そう張り切っていた。
「カルさん、さっきは手を払ってすみませんでした」
「いいのよ。私が突然で驚かせちゃったんだもの」
いいから選びましょ!と笑うカルさんは眩しかった。