こうして彼、もといセイとの共同生活はいくつかの条件とともに始まった。
 というのも
 『交換条件といっても共同生活であることにかわりはない。だから、いくつか条件を設けたいんだ』
 ということらしい。
 私的にはいらないけど、変に断って追い出されでもしたら元も子もない。
 『わかりました。その条件の内容は?』
 こう聞いた時の彼のにんまりとした笑いは軽くトラウマになりかけたが……
 1、彼のことはセイと呼ぶ
 2、必要なものがある場合は必ず言う
 他にもいくつかあったが、結果的に残ったのはこの2つとなった。

 そんなこんなでこの生活を始めてもう1週間も経つ。
 セイの家に来てからは基本は家を出ていないし、幸いなことにセイ以外の役人とも会っていない。
 ここに来る前の5年間の生活が嘘だったのではと思うくらい平和だった。
 この先罰が当たっても文句は言えないぐらいには。
 「ただいま」
 「おかえりなさい」
 セイの家を出る時間と帰って来る時間は日によってまちまち。
 昼ごろに帰って来るときもあれば夜遅くに帰って来るときもある。
 「今日は早かったんですね」
 「ああ、今日は少なかったからね」
 捕獲命令は日によって人数が変わるらしい。
 「今日は何人でしたか?」
 「3人だ」
 私が平和に過ごしたこの1週間。
 何人の異端者が死の恐怖に怯え、殺されていったのだろう。
 「……こんな政策なくなればいいのに」
 「少し早いけど、夕食にしようか」
 聞こえているはずなのに聞こえないふりをする。
 ずるい人だ。
 「そうですね」
 食器のあたるだけが響く夕食。
 会話はない。
 「そうそう、明日休みになったんだ。キミの服と靴を見に行きたいんだけど……」
 「休みはセイのためのものなんですから自分のために使って下さい」
 「僕だけが買い物に行くわけじゃないよ?」
 思わずセイの顔を凝視する。
 「キミも行くんだよ、アル」
 他に誰がいるの、と首をかしげる。
 何を言っているのこの人は。
 さらっととんでもない発言をしたけど。
 「私が見つかって困るのはセイですよ?」
 「大丈夫だよ。僕のフードつきの服なら大きいし羽織っていれば見えないから」
 質問の答えになっていなくて思わずため息をつく。
 「ね?いいだろ?」
 ニコニコと私を見つめる。
 まるでおもちゃを買ってもらおうとする子供。
 こうなったら断れない。
 「わかりました。行きましょう」
 よっしゃとガッツポーズするセイを横目に片づけをする。
 本当に子供みたい。
 「そういえば、セイって歳はいくつなんですか?」
 「ん?キミの一個上だけど」
 ……出会って以来の一番の衝撃。