私が住むこの街では、異端者は見境なく殺される。
 性別も年齢も地位も何もかも関係なく、街に異端者だと認められた者は街の役人にどこまでも追い回され、捕まれば殺される。
 そもそも『異端者』がなんなのか。
 この街の、私は名も知らない偉い人が決めた『普通』と違う者。
 では『普通』とは何か。
 容姿も思考も『みんな』と同じ人。
 特別は許されない。
 反対も許されない。
 この街はそういう街なんだ。

 私は始めから異端者だったわけじゃない。
 私が生まれたころはそんな政策はなかった。
 好きな本を読んで、友達と外で遊んで、両親の手伝いをして……
 毎日が楽しかった。
 平和だった。
 こんな日々がずっと続くのだと信じて疑わなかった。
 そんなある日、街は変わった。
 異端者リストなんてものができて、リストに載った人たちは次々と役人によって殺されていった。
 その日から両親は私を外に出さなかった。
 街が寝静まってから、母が作ってくれた赤い頭巾を被って庭で遊んだ。
 そして母は毎日のように
 「綺麗な色なのに」
と、私の髪を触った。
 そんな生活になって数年が経ち、疑いを覚えたころ、うちにも役人が来た。
 そして両親に聞いたんだ。
 ”アル・ロノアはいるか”と。
 このとき確信した。
 やはり載っていたんだ。
 それもリストができてすぐのころに。
 だから両親は私を守るために赤い頭巾と夜をくれたのだ、と。
 「逃げなさい!アル!」
 その声にハッとして赤い頭巾を被り裏口から逃げた。
 数年ぶりの太陽はまぶしかった。
 人の多い大通りを抜け、細い裏道を駆け抜けた。
 無我夢中で走って気が付いたら廃れた小屋の前に立っていた。
 人が管理している様子もなく、人影もない。
 家に帰ることができないと考えた私はここに住むことに決めた。
 きっと両親は異端者をかばったとして殺されてしまったと思う。
 このとき、私は12歳だった。