「はあ……」

ピアノ教室のかばんを手に、華恋はため息をつく。その心はいつも以上に重く、華恋は迎えの車も待たず、ブラブラと歩く。

今日はピアノがうまくいかなかった。いつもならミスをしないところでもミスをし続け、先生から「あなたは花園グループのお嬢様なんだからこれくらい簡単に弾けないと！」と叱られてしまったのだ。

「好きで花園グループのお嬢様になったわけじゃないのに……」

普通の家の女の子が着ないであろうブランドのコートの裾を握り締め、華恋は呟く。泣きたくなるのを必死で堪えていた。その時、「大丈夫？」と声をかけられる。

華恋が振り向くと、グレーのジャンパーを着てジーンズを履いたショートカットの女の子が立っていた。その手にはオレンジの可愛らしい花が一輪あった。どこからどう見ても華恋の知るお嬢様ではない。

「あなたは？」

華恋が訊ねると、女の子は「あっ！えっと……」と顔を真っ赤にしながら口を開く。