誰か、この状況を説明してください。
朝起きたら知らない男の人が私の家に居て、朝食を作っているんです。
譲りたくないけど、少なくて5万歩譲ったとして、ここまではいいとしましょう。この際、不法侵入とかなにやらは考えないこととする。
その男の人は、少しくせっ毛のある黒い髪。
愛嬌のある目には、今時珍しい赤い目。
身長はざっと見て170cmぐらいはあるだろう高身長の割には、人懐っこそうな顔をしている、いわゆる子犬系男子だった。
1度はこんなかっこいい男の人に世話されてみたい……そんな状況が、今、目の前にあった。
でも、なんでその状況の中、耳と尻尾がついているんですか?
私、そんなマニアックなもの望んでいないし、趣味にも目覚めていないよ?
「もしかして、口に合いませんでしたか」
‪私の箸があまり進んでいないのを見てどう思ったのか、先程まで嬉しそうに動いていた耳と尻尾が、今は全くと言っていいほど動いていない。
(……というか、少し項垂れている気がする……)
「えっと……とても、美味しい、です」
「そうですか。良かったです!」
……いやいや、何私普通にこの人と会話しているの?相手は不法侵入+コスプレしている(と思いたい……)怪しい人なんだよ?
しかも、笑顔が眩しすぎます。なんか、外は雨が降っているはずなのに、ここだけ輝いているんですけど……。
(ハァ……疲れた……。誰か、昨日までの私の日常を返してください……)
なんてことを1人で考えていたら____
「ご主人。そろそろ出ないと、学校とやらに間に合いませんよ?」
「え……」
慌てて時計を見ると

時刻、7時50分。

家から学校までの道のりは結構遠く、歩くと約45分以上、自転車を使っても30分以上はかかる。
ちなみに、8時半までに教師室に入らないといけない訳だが、今は自転車が壊れているため、必然的に歩きとなります。
「……え〜っ!?ちょ、もうこんな時間!?とりあえず、制服に着替えないと……!」
最初は気慣れなかった制服を、慣れた手つきで着る。
(次はお弁当!!)
台所へ向かい、お弁当を鞄の中に入れる。昨日の内にお弁当を作っておいたのが、不幸中の幸いだ。
(今の時間は……)

時刻、8時。

(もう髪は学校に着いてからにして……あぁ〜もう!!遅刻だけはしたくないよ〜!!)
「お父さん、お母さん。行ってきます!」
中学生になる少し前からやっている日課をしてから、家を出る。
おそらく、人生上今までにない速度で学校へと向かった。

その時の私は、ある大事なことを忘れていた。
あの、名前も知らない男の人のことを……。

《キーンコーンカーンコーン》
「……はーっ、はーっ……」
8時半のチャイムと同時に、教室に到着した。
このチャイムは遅刻用なため、まだ先生は来ない。なので、教室内ではクラスメイト達が机を挟んで話し込んでいた。
(ま……間に合った〜……)
私は自分の席に座り、ホッと息を吐く。安心のせいか、それとも学校まで走ったせいか、しばらくは席から動きたくない。
そもそも、私長距離得意じゃないのに……。
「おはよう、秋音。どうしたの?珍しく遅刻寸前だったじゃん」
「おはよう、つぼみ。あれ?そういえば、なんでだってけ?」
「いや、私に聞かないでよ笑」
私の隣の席に座って話しかけてきたのは、中学校からの友人である『森つぼみ』。本当につぼみか?、と言いたくなるほどの美人めでよくモテる。