「本当は、数時間前にお姉さんをみつけてたんだ」
「へ?」
風の音が聞こえるくらいの僅かな間があって、唐突に、予想外のことを言うから、男の子を振り返った。
「その内帰るかなって思ってたのに、ずっといるから」
意味ありげに苦笑するこの子の意図が、私はいまいち分からない。
「あぁ、ごめん。おかげで仕事進まなかったよね。おまけにこんな話まで」
「そうじゃなくて!」
「ん?」
「あー…。いいや。ちょっと待ってて。
5分だけ、僕にちょうだい?」
眉を寄せた私にそう言って、反応すら待たずに距離を取った。
みえる場所にいる後ろ姿は、ポケットからiPhoneを取り出すと、歩きながら何処かに電話をしているみたい。声までは聞こえないけど。
…なんだろ?
脈絡がなさすぎて予測もできない。
だけど少しだけ、ホッとしてる自分もいる。
あんまり深刻にならなくてよかった。
そういう空気に、してくれたのかもしれないけど。
帰れるのに、帰らない私は、出会ったばかりの男の子といる時間に居心地のよさを覚えてしまってる。
それは多分、私の大切な想いを、大切にしてくれたから。
あたたまっていく心。
冷たさで、すっかり色が変わっていた指先に気づいて、息を吹きかけた。
上を見上げると、冬の澄んだ空に、三日月が浮かんでいた。
その時、どこかでパチンと音がなったように、当たりが明るくなる。
「…なんで」
三日月だけじゃ、とてもこうはならない。
キラキラと光る青とシルバーの正体。疑問を投げかけるより前に、私はとっくに気づいてる。
「イルミネーションを苦しいままで終わらせたくなくて?
魔法、かけてみた」



