「さあ、行きましょう? ここでこうしているのも、なんだかもったいない気がしますから」

「う、うん……」

 気恥ずかしくて、目を合わせられない。
 こんなことは初めてのことで、ピケは困惑した。

「お手をどうぞ。初めての王都で迷子になったら大変です」

 差し出された左手をまじまじと見て、ピケはゴクンと唾を飲んだ。
 改めて見てみると、ノージーの手は自分と全然違う。

(男の人、って感じだわ)

 だけど、いつもだったら自然と嫌悪感だとか震えがくるのに、そういった感情は湧いてこない。

(家族だからかしら?)

 恐る恐る右手を乗せると、やわらかく握られる。
 あたたかな体温に、緊張で詰めていた息がホゥと流れ出た。

「さぁ、行きましょう。一緒に行きたい場所が、いっぱいあるのです。まずは……あなたが好きそうなお店へご案内しますね」

 ノージーが、ちょっとだけ意地悪そうに笑う。
 たぶん……いや絶対、行き先はお菓子屋さんに違いない、とピケは思った。