男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている

 ノージーの言葉に、ピケがハッとなる。

(ああ、恥ずかしい。あんなの、子どもの戯言でしょうに)

 過去の過ちを掘り返されたような気分だ。
 勝手に赤らむ顔が恨めしい。ノージーみたいにポーカーフェイスが出来たら良かったのに。
 ピケはできるだけ威厳が出るように目をつり上げて、ノージーを睨んだ。

「覚えていたの?」

 ピケは、父と母が初めてデートした時の話を、よくノージーに話していた。
 父は寡黙でめったに自身の話をすることがなく、唯一聞き出せたのがその話だけだったのだ。

 話の中の母は、元気な人だった。
 やさしくて、ちょっぴりお転婆で……その辺りはピケにも遺伝しているのかもしれない。

 ピケの記憶にある母はすでに病床に伏せっている状態で、元気だった頃の彼女の姿は覚えていなかった。
 だからこそ、元気だった頃の母のことを忘れたくなくて、どうやってでも覚えていたくて、身近にいたノージーに、繰り返し繰り返し話したのだ。継母が来てからは、母の話をすることを禁じられてしまったけれど。