「ノージー、聞いているの?」

 頰に手のひらを当てて首をかしげ、見上げてくるイネスはかわいらしい。戦場の救護テントで見たら、お迎えが来たと勘違いするのも無理はない。
 もっとも、ピケに恋するノージーからしてみれば、彼女以上に愛らしく、かわいらしく、すてきな女の子など存在しないのだが。

「はい、なんでしょうか? イネス様」

 ニッコリと当たり障りのない笑みを浮かべて、ノージーは従順に答えた。
 そもそも、ノージーが妄想をし始めたのもイネスの発言が発端なのである。

 これからが本番だったのに、と妄想を中断されて少しばかり腹を立ていたが、ノージーの表情からそれを読み解くのは難しい。
 だがしかし、相手は王女様である。それも、父王から最も愛され、兄弟姉妹から最も嫌われてきた彼女は、人の表情を読むことに長けていた。

「昨日は随分と楽しい休日を過ごしたようね?」

「ええ。とても充実した休日でした」

 大満足、といった様子で胸に手を当てて深く息を吐いたノージーに、イネスがすっと目を細める。
 その目は明らかに、「期待していた答えじゃない」と言っていた。