「ああ、そうね。まさに言い得て妙だわ。ノージーは猫みたいな子だから」

 ピケの失言に、けれどイネスは気づかなかったようだ。
 良かった、とピケはこっそり安堵(あんど)の息を吐いた。
 だって、獣人だなんて知れたらどうなるかわからない。解雇されるだけならいいが、最悪の場合は殺されることだってあり得るとピケは思っている。

 ロスティが野蛮な国だという認識は、なかなか拭えない。
 王城にいる人たちはみんな親切だが、いざ戦争となれば迷いなく戦うことを、ピケは知っている。
 訓練場へ行けば、否応なく分からされた。

「それだけ、あなたに全幅の信頼を置いているのね。だからこそ、わたくしはノージーが一人で買い物へ行ったことが不思議でならないの。はじめての場所で一人きり。それでも行きたい何かが、王都にあるということなのだから」

 イネスが手ずから淹れたチャイを口にしながら、ピケはまたうなった。
 ノージーは、王都へ何をしに行ったのだろう?

(買い物? 散歩? それとも、誰かと会う約束でも?)

 デート、という言葉が脳裏を過って、ピケの眉間にしわが寄る。

「まさか、ねぇ……?」