男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている

「それにしても……ノージーがあなたを置いて買い物へ行ったと聞いた時は驚いたわ。あなたはともかく、彼女は神経質だから」

「神経質、ですか?」

 ノージーのことはわりと神経が図太いタイプだと思っていたピケは、イネスの言葉が意外で、一瞬目を丸くした。

 本当にノージーのことを言っているのだろうか?
 神経質な人はボロ小屋で寝泊りなんてしないし、王族にしれっとうそをついたりしないと思う。
 これまでのことを思い返しても神経質という言葉とノージーが結びつかなくて、ピケは「うーん」とうなった。

「ええ。あの子、はじめての場所は苦手でしょう? ここへ来たばかりの頃、あなたのそばでは落ち着いていたけれど、あなたがいない場所ではいつも緊張しているように見えたもの」

「そうなんですか? 知らなかった……」

「そうでしょうね。だってあなたの前では絶対に見せないもの……というのは語弊があるかしら。見せない、というよりできない、というのが適切かも。あなたの前ではクタクタにリラックスしてしまうって感じがしたわ」

「はは。私はまたたびですか?」

 クタクタにリラックスしている猫だった時のノージーを思い出して、ピケはついうっかり口を滑らせた。
 だがすぐに、ノージーが獣人だとバレそうなことを言ってしまった、と気づいて焦る。
 ギクリと肩を強張らせるピケの前で、イネスが自身の頰に手のひらを当てて「またたび?」と不思議そうにまばたきした。