「あらまぁ」

 口元に手を当ててころころ笑うイネスに、ピケは「すみません」と謝った。
 いくらイネスが許可していることとはいえ、気を楽にしすぎである。
 そうしてやっぱり「そのままでいてちょうだい」と笑顔で釘を刺されて、ピケは苦笑いを浮かべてまた「すみません」と謝った。

 イネスはピケに、ともだちのように接してもらいたいと常々言っている。
 ピケは祖国に置き去りにしてきてしまった大切な人形(おともだち)の代わりなのだから、畏まる必要はない、と。

 王族の考えていることはよくわからない──なんならピケは、祖国に置いてきた人形とやらも、本当は人なんじゃないかと怪しんでいるくらいだ──が、侍女であるピケはイネスの願いを叶えることが仕事である。
 彼女の婚約者であるキリルからも許可を出されては、従う他ない。

 誰に言われたわけでもないが、王族とタメ口で会話するというこの不思議な関係に、ピケは不安を抱えている。
 だからつい、「すみません」と何度も口にしてしまうのだ。
 謝るたびにイネスが困ったように笑うから、いい加減腹を括らないと、とは思っているのだが。