「きれいですね」

 耳にした言葉は、自分のものかと思った。
 思わず「え」と声を漏らすと、ノージーがはにかんだような笑みを浮かべる。

「窓から差し込んだ光があなたの目を照らしていて、とてもきれいです」

 男嫌いをノージーで克服してみようか、と思った矢先に照れ笑いを見せられて、ピケの心臓がドキンと高鳴る。

(なんてタイミングで笑うのよ……!)

 隙を突かれたように動揺させられて、八つ当たりしてしまいそうだ。
 ピケは不機嫌に、顔をしかめた。

「ピケはもう聞きましたか? 明日はお給料日だそうですよ。お給料なんて初めてですから、ワクワクしちゃいますね」

「お給料?」

 突然話題を変えられて、ピケはきょとんとした。
 改めてノージーを見ると、彼は苦さが残る笑みを浮かべている。
 ワクワクしちゃう、なんて言いながらそんな顔をしているのは、きっとピケのせいだ。

(私が困っているのがわかったから、あえてお給料の話なんてしたのね)

 とはいえ、お給料は魅力的な話だ。
 八つ当たりする前に乗ってしまおう、とピケは話に食いついた。

「ええ、そうです。ためるも良し、使うも良し。ピケの好きにして良いのですよ」

「私の、好きに……?」

「こんなこと、初めてでしょう? だから私、次のお休みに王都へ行くつもりなのです」

 楽しみだなぁと笑うノージーに、ピケもなんだかワクワクしてくる。
 走る馬車から見た王都の街並みは、ピケなんかが歩いて大丈夫なのだろうかと思うくらい綺麗だった。
 王城で働くようになって格段に身綺麗になったはずだが、行っても大丈夫だろうか。

 不安はある。
 だがそれ以上に好奇心が勝ったピケは、近いうちに王都へ行ってみようと決意した。