「ピケ」

「なぁに、ノージー」

 心配がにじむ声で話しかけられて、ピケはつとめて冷静に、笑顔で答えた。
 だが、ノージーに彼女の動揺を察せないはずがない。

「待っていても良いのですよ?」

「ううん、行く。だって私は侍女になったのだもの。お仕事は、ちゃんとしなくちゃいけないわ」

 だってそれが、あなたの言う私の幸せなのでしょう?
 そう言われてしまったら、ノージーはぐうの音も出ない。

 ノージーは非力だ。
 財力もなければ権力もなく、家柄どころか戸籍すらない。人より遥かに強い肉体と、ピケ好みの容姿しか、持っていないのである。

『きっと、あなたを幸せにしてさしあげます』

 なんて傲慢(ごうまん)な言葉だろう、とノージーは思う。
 心からの言葉だったけれど、ノージーの力だけでは決して叶えられないのに。

「強くなりたいな……」

 ロスティは、力こそすべてだと聞く。
 それならば、人より遥かに強い力を持つ獣人には、うってつけのように思えた。

「何か言った? ノージー」

「ええ。おなかが空いたな、と」

 苦笑いを浮かべながらおなかをさすれば、ピケが目をパチクリとさせてから「プッ」と吹き出した。
 ようやくかわいい笑顔を見られて、ノージーは安堵(あんど)する。そして改めて、絶対にピケを幸せにしようと誓った。