アルチュール王国第四王女、イネス・アルチュール一行を待っていたのは、彼女の夫となる予定の男、キリル・ロスティその人だった。
 国王とともに謁見の間で顔合わせをする予定だったのだが、どうやら待ちきれなかったらしい。
 彼はソワソワと落ち着きなく体を揺らしながら、ゆっくりと停まった馬車からイネスが降りてくるのを、今か今かと待っていた。

 最初にノージーが降り、次にピケが降りる。
 初めて見た王子様という存在に、ピケは「うん」と頷いた。

(まぁ、そうだよね)

 彫りの深い顔立ちをしているイネスとは正反対の、彫りの浅い顔。顔の幅は広めで、なんだかゴツゴツした印象を受ける。
 王子様のトレードマークだと思っていた金の髪はなく、頭にあるのは少々薄めの焦げ茶色の髪だ。
 お世辞にも美形とは言えないが、イネスを見るなり浮かんだ満面の笑みは、かわいいと言えなくもない。

(どうしてだろう……図鑑で見たトドっていう生き物の姿が、王子様と重なるわ)

 失礼な残像を見るピケに、誰も気がつかなかったのは幸いだった。
 もっとも、彼女の隣にいたノージーは「グフゥ」と小さく吹き出していたので、彼にだけはバレバレだったようだが。