アルチュールは、暑さに負けないくらい活気がある国らしい。
 人も物も文化も。どれをとっても、生き生きとしている。けんかっ早いのがたまにきずではあるけれど、困った時はお互いさまと助け合うこともできる。
 祖国を語るイネスは誇らしげだったが、その目には不安と寂しさがにじんでいた。

 たった一人で異国の地へ嫁入りするイネスの気持ちは、どんなだろう。
 きっとピケが想像している以上にさびしくて、つらくて、悲しい。
 それらを覆い隠して微笑む彼女が、すごいと思った。そして同じくらい、素直に感情を表すこともできない立場は大変だな、と思ったのだけれど。

 だからピケは、これ以上彼女がさびしくならないように、慣れないながらぎこちなく笑みを浮かべて、道端に咲く花が綺麗だとか、遠くを飛ぶ鳥の声がかわいいとか、とりとめない話をし続けた。
 それが、侍女になったピケの最初の仕事だと、思ったのだ。