川から救出されたピケは、ふかふかの布で体を拭かれ、今まで着たことも見たこともない上等な服を着せられ、馬車の中へ招き入れられた。

「大変な目に遭われましたね。もう大丈夫ですよ」

 目元が印象的な美女が、ピケに向かってニッコリと微笑みかけてくる。
 浅黒い肌に、金糸のような艶やかな髪。彫りの深い顔立ちで、鼻が高くて目が大きい。
 ピケよりもだいぶ年上のお姉さんに見えるが、同じ歳らしい。

 美女の名前は、イネス・アルチュール。
 ロスティ国オレーシャ地方よりさらに南方にあるアルチュール国の第四王女であり、父である国王が特にかわいがっている娘である。
 国王の溺愛ぶりは他国へも伝わるほどで、彼女は【アルチュールの至宝】と呼ばれていた。戦時中は負傷兵を看護していたことから、一部では【アルチュールの天使】とも呼ばれているのだとか。