きっかけは、意地悪な継母と義兄が家にやって来たことだろう。
 彼女たちはピケのことを召使のように扱い、やれ掃除だ、やれ洗濯だと命令を言い渡した。
 時には真夜中に叩き起こして「今すぐ魔兎が食べたい」と駄々をこねる義兄のために、魔の森へ行かされたこともある。

 ピケは最初、「召使じゃない」と反抗的な態度を取っていたが、継母から「父親がどうなってもいいのかい?」と言われて黙るほかなかった。

「あんたはいずれこの家から出ていく身。あんたがいなくなった後、誰があんたの父親の面倒を見ると思っているんだい?」

「……」

「あたしたちさ! 粉挽き小屋とロバさえ手に入れば、あたしと息子たちは生きていける。分かるかい? あんたの父親なんか、どうなったって構わないのさ。父親を魔獣に喰い殺されたくなかったら、今のうちに恩を売っておくんだね」

「……はい、わかりました」

 その日から、ピケはだんだんと笑わなくなっていった。
 ノージーが自慢の毛並みで擦り寄っても、力なく撫でるだけ。
 淡々と命令を聞くだけの人形のような生き方をする彼女を、ここから連れ出したいと何度思ったことか。
 でもピケが「逃げたい」と呟きながら父を思って泣くから、結局ノージーは連れ出せなかった。