「ノージー」

「なんですか?」

「ネズミは食べられないよ?」

「僕だって嫌ですよ」

 顔をしかめるノージーに、ピケは「え」と間抜けな声を漏らす。
 だって、それなら彼は──、

「嫌なのに、ねずみ捕りをしてくれていたの?」

 ノージーはピケの言葉にピタリと歩みを止めて振り返った。
 言うべきか、言わぬべきか。一瞬だけ悩んだそぶりを見せたが、彼は言わないことにしたらしい。
 ごまかすようにぎこちない笑みを浮かべると、無言で出ていってしまった。

 残されたピケはポカンとしたまま、天井を眺める。

「まさか……私のため、とか言わないよねぇ?」

 ノージーが自分に恋をしたというせりふが思い起こされて、ピケの胸がドックンと大きな音を立て始める。

「あんな告白、ある……? いや、告白だったの……? 告白っていうより、ただの説明みたいだったよ?」

 信じられない、とピケはトランクを抱えたままゴロゴロと床を転がる。
 あんまり自然に言うものだから、うっかり流してしまった。おかげでピケの胸は、今頃になってドキドキしている。

「告白って、もっとロマンチックなものじゃないの? 恥ずかしさをごまかすため? でもあれじゃあ、その気になりようもないわ」

 恥ずかしさをごまかしているのは、一体どちらなのだろう。
 ツンと澄ました顔をしながらも、ピケの頰はうっすらと赤らんでいたのだった。