ただただ胸が高鳴ってどうしようもなかった時が過ぎ去って、ドキドキするだけではない、深い安らぎを得るような関係。
 ノージーは、いつかそれになりたいと思った。

「え、違うの?」

 きょとんとするピケに、ノージーが苦笑いを浮かべる。
 言いづらそうな理由があるのだと思った瞬間、ピケはアドリアンの「むっつり」というセリフを思い出す。
 ピケは慌てて、ノージーを引き剥がした。

「ノージー、説明してちょうだい」

 ステイ、と言うようにピケが空いている椅子を指差すと、ノージーは耳をへにゃりと伏せてとぼとぼと指定された場所へ歩いていく。
 シナシナと力なく垂れ下がっている尻尾にピケは罪悪感を覚えたが、今はそれよりも確認することが先だと言い聞かせた。

「大丈夫ですか、ピケ」

 椅子に腰掛けたノージーが、心配そうにピケを見る。
 安心させようと無理に笑おうとしたが、ピケの唇は拒絶するように震えるだけだ。
 ノージーはそんな彼女を勇気づけるように、あるいは逃げるのを阻止するように、椅子ごと移動してきて手を握った。