(私は、私だけのたった一人が……ノージーがほしかったのね)

 きっとノージーも、同じはずだ。
 ピケに恋をして、ピケと生きるために獣人になったのだから。

 改めてノージーへの気持ちに気がついたピケは、これから実行しようとしていたたくらみが、悪夢のように胸を苦しく責めてくるような気がした。

(私は自分の気持ちも、ノージーの気持ちも大事にしなくちゃいけなかったのに)

 キスを拒むように自身の唇を手で覆うピケ。
 彼女の反応を満足げに見やりながら、アドリアーナは聞こえてくる足音にニンマリと人の悪い笑みを浮かべる。

「ふふ。王子様の到着だ」

 アドリアーナの楽しげなつぶやきが聞こえる。
 聞き返す間もなく個室の扉が勢い良く開け放たれて、赤と茶が混じった不思議な色をした短髪の青年が飛び込んで来るのが見えた。