「高くない……俺が払うから、気にせず食べろ」

「でも」

「ケーキは、褒美だ」

 アドリアンの申し出に、ピケは眉間をキュッと縮めた。
 訝しむようにアドリアンを見つめる彼女の唇が、突き出る。

「ご褒美をもらえるようなことを、していません」

 不機嫌な子どものように、ピケは唇を尖らせる。
 その様子が心の琴線に触れたのか──実際にはピケの愛らしさに我慢ならなくなっただけだが──アドリアンの頰が少しだけ緩んだ。

「ここの菓子はおいしい。おまえにもぜひ、食べてもらいたいのだ」

 あるかなしかのかすかな笑みだが、ピケが怯むには十分な効果があった。
 身じろぐピケにチャンスだと思ったのか、アドリアンがフッと笑みを深める。
 そんなわけは絶対にないのに、ピケはその目に女性的なやわらかさを感じた。