アドリアンの衝撃が処理できていないうちに高級カフェの衝撃が追加されて、ピケは混乱した。
 蝋人形のように固まってしまったピケを一瞥したあと、アドリアンは迎えてくれた店員に支配人を呼ぶよう頼む。

 支配人はすぐにやって来た。
 白髪混じりのロマンスグレーを丁寧に撫でつけた、執事のようなおじさまだ。
 温厚そうな顔で微笑みながら、ピケを見て楽しそうに目尻を下げる。

「いらっしゃいませ、ゼヴィン様。今日は可愛らしいお嬢様をお連れなのですね。珍しいこともあるものです。ただいま奥の個室が空いておりますが、そちらでよろしいでしょうか?」

「ああ」

「それでは、ご案内いたします」

 こうなってしまっては、今更「別の店に行きたかったんです」とは言えない。
 侍女のお給料でも払えるお茶がありますようにと祈りながら、ピケはフカフカの絨毯(じゅうたん)の上をおずおず歩いた。