旧オレーシャ国は、ピケが生まれた国である。
 数年前に敗戦してからはロスティ国に吸収され、現在はオレーシャ地方と呼ばれていた。

 オレーシャ地方の北には、かろうじてと言っても差し支えないほどちょっぴり、森に面している地域がある。
 深い霧と濃い魔素に覆われたこの森──通称・魔の森は、魔力耐性がない者が入ればあっさりと迷い、惑わされ、最後は獣に喰い殺される運命が待っている、恐ろしい場所だ。
 とはいえ、ピケはこの森の存在を怖いと思うどころか感謝さえしている。なにせ、ネッケローブ家の食卓を彩る肉類は、この森からの恵みだったのだから。

 魔の森には、魔獣と呼ばれる特別な獣しか生息していない。
 魔獣は狼や狐といった森に生息している動物のような姿をしているが、それらと決定的に違うのは、魔術を扱えるということだ。
 かわいいウサギだと思って近づいてみたら火を吹かれて真っ黒こげ、なんて事件は年に数件は聞く話である。