部屋に戻る頃にはすっかり日が落ちて、室内は真っ暗になっていた。まるでピケの今の気持ちを表しているようで、気がめいる。
 窓の外で降る雪はもう見慣れたもので、むしろ今は目障りなくらいだった。ピケは月明かりで白銀にきらめくそれを見ないように、カーテンを引いた。
 それから頼りない足取りでベッドへ歩いていって、ポスリと身を投げる。

「ああ、どうしよう……」

 熱くなるまぶたを手で覆い、ピケは吐き出すように言った。
 泣いたってどうにもならないことなのに、勝手に涙が出てくる。
 ひっきりなしに出る嗚咽は無性に腹が立って、「もう聞きたくない」とピケは手近にあった枕で顔を覆った。
 降り積もる雪が外の音を消しているのか、室内は静かだ。しんとした室内に、ピケのすすり泣く声がこだまする。

「どこで間違えちゃったんだろう……」

 家から逃げ出したことは後悔していない。
 あのまま家にいたら、取り返しのつかない結末しかなかったと思う。
 考えたくもない、おぞましい未来だ。断固として、お断りである。

 侍女になったことは多少後悔もあるけれど、それを補って余りあるくらいに、ピケは幸せだった。
 イネスとキリル。ちょっとクセはあるけれど優しいロスティの人々。そして、誰よりもそばにいてくれる、ノージー。
 侍女になってからの時間は、人生で一番満たされた時間だったと断言できる。