(さっさと逃げてしまえばよかった。そうしたら、こんなことにはならなかったのに)

 情けなくて、馬鹿馬鹿しくて。
 ピケは唇を噛んだ。

「わかっているのなら良い。精進せよ」

「……え?」

 思ってもみない言葉をかけられて、ピケは呆けた顔でガルニールを見た。

「侍女をやめろと言われると思ったのか? イネス王女様はおまえを気に入っている。お気に入りのおもちゃを取り上げてはかわいそうだろう」

「でも」

「取引だと言っただろう? 私のいうことを聞けば、見逃してやる」

 不意に、ノージーの言葉を思い出す。

『僕のいうことを聞いてください、ピケ』

 似たような言葉なのに、どうしてこんなに感じ方が違うのだろう。
 胸がドキドキしているのは一緒だけれど、その意味は全く違うとピケは思った。