感謝してくださいと言わんばかりのメイドにガルニールは何か言いたそうにしていたが、彼女が曲芸師のようにどこからともなく取り出した複数本のナイフを回し始めると、口を歪めて押し黙った。
 室内に、ナイフが回るかすかな音だけが響く。
 いつナイフが飛んでくるかわかったものではなくて、ピケは全神経を集中させてメイドを警戒した。

 しばらくして、立ち直ったらしいガルニールが咳払いをして席へ座り直す。
 それが合図だったのか、ナイフの音が止まった。
 ホッと息を吐くピケの前で、組んだ手の甲に顎を乗せたガルニールが目を細める。

「ピケ・ネッケローブ。私はおまえと取引がしたいのだ」

「……」

「おまえのことは調べがついている。父親を亡くし、義母と義兄に家を乗っ取られ、家を追い出された哀れな娘。イネス王女様はそんなおまえを同情し、侍女にしたのだろうが……粉挽き屋の娘など、侍女にふさわしくない」

「わかっています、そんなこと」

 誰よりも、ピケがわかっている。
 王都の人々に笑われてしまうような者は侍女にふさわしくないことくらい、わかっているのだ。
 それでもここにしがみついていたのは、ノージーがピケの幸せを思って与えてくれた場所だからだ。
 がんばってしがみついていれば、いつか本物になれるかもしれない。
 そう思い込もうとしていたけれど、土台無理な話だったのだろう。