「ネッケローブさんはイネス王女様が国から連れてきた侍女なのでしょう? でしたら……お話、できますよね」

 そこでようやく、ピケは気がついた。
 ピケは、イネスがアルチュールから連れてきた侍女だと思われている。
 国王も言っていたではないか。「慣れ親しんでいる者がそばにいた方が、ここに慣れるのも早かろう」と。
 イネスはうそを言っていないが、わざと濁した言い方をしていた。捉え方によっては、騙していたと言われても仕方がない。

(騙されたと思われたらどうなるの? また、イネス様の幸せが遠退くのでは……?)

 それだけじゃない。黙っていたピケやノージーだって、同罪なのだから。

 微笑んでいると思っていたメイドの顔が、歪んで見えてくる。
 ピケが疑心暗鬼になっているから、そう見えるのだろうか。

(ガルニール卿が私を呼び出した理由を、彼女は知っているの?)

 ピケの背中を冷や汗が伝っていく。
 逃げたいと思ったら、いや、思うよりも前に反射で逃げ出せるはずのピケの体は、こんな時に限ってポンコツになってしまったらしい。
 気付けばピケはメイドに手を引かれて歩いていた。
 握ってくる手は小さくか弱そうに見えるのに、ピケの力でも振り解くことができなかった。