「ところで、考え事をしていたということは、今はお手隙ということでしょうか?」

 メイドは至って丁寧な態度でピケと接している。
 だというのに、ピケは逃げたくてたまらなかった。
 得体の知れない脅威に睨まれているような、そんな気がしてならない。

「一応、仕事は終わっていますけど」

 手ごわい獲物を前にした時のような気分だ。
 物音ひとつで勝敗が決まってしまうような、危うさがある。
 探り探り答えたピケに、メイドは艶やかに笑った。
 歳不相応な笑みは、ピケの不安を煽る。

「それは良かった。あなたにお願いしたいことがあるので」

「お願いしたいこと?」

「ええ。ガルニール卿が、あなたをお呼びなのです。ここへ来てひと月。アルチュールが恋しくなってきたので、同郷であるあなたと話がしたいのだそうです」

「私と……?」

 一体どういうことだろう。
 ピケはオレーシャ地方出身であって、アルチュール出身のガルニールと同郷のはずがない。
 動揺し視線を泳がせるピケに、メイドは「あら?」と首をかしげた。