「……あ」

 ノージーの目は、見たこともないくらいとろけた色をしていた。
 舐めてみたら甘いんじゃないか、と思うくらいに。

 体がムズムズして、ノージーを突き飛ばしたい衝動に駆られる。
 だけどそれと同じくらい、ピケが逃げられないくらい強い力で、ギュッと抱きしめてもらいたいとも思ってしまった。

(なんなの、なんなの、なんなのよぉぉぉ!)

 混乱するピケを冷静にさせたのは、ノージーを呼びに来たメイドの声だった。
 弾かれたようにピケの手が、ノージーを押し出す。

「私は大丈夫だから。行って?」

 一体ピケは、どんな顔をしていたのだろう。
 ノージーは怒っているような、今にも泣きそうな複雑な表情で舌打ちしたあと、「またあとで」と踵を返した。

「耳があつい……」

 なにも耳元でささやかなくてもいいのに。
 燃えるように熱を持つ耳を摩りながら、ピケは遠ざかる背中を見つめ続けた。