「おかえりなさいませ」

 気配もなく現れた少女に、ガルニールは「ひっ」と小さな悲鳴をあげる。
 ハラリと落ちたハンカチを拾い上げながら、少女は「そんなに驚かなくても」とクツクツ笑った。

「きゅ、急に現れるなと言っているだろう!」

「仕方ないでしょ。それが仕事なんですから。今日もお賃金分働いてきましたけど……何から聞きたいですか?」

 少女は、ガルニールに雇われたなんでも屋だ。
 かわいらしく幼い見た目をしているが、騙されてはいけない。なにせ彼女はこう見えて、裏社会では諜報、護衛、暗殺と後ろ暗いことで大活躍している、要注意人物なのである。

「もう何か見つけてきたのか」

「ええ、わたしって有能なので。それで? あなたが欲しいのはキリル王太子の情報? イネス王女様の情報? それとも……イネス王女様の侍女の情報?」

 イネス王女の侍女。
 気にもとめていなかった人物の名が出てきて、ガルニールは眉をひそめた。

「イネス王女様の侍女……? 一体、何があると言うのだ」

 どうやら興味を引き出せたらしい。
 これはお賃金アップか⁉︎ と内心ほくそ笑みながら、少女はにっこりと微笑んだ。

「ええ、なかなか面白い内容でしたよ」

「よし、話せ」

「二人分なんで、二日分のお賃金もらいますけど」

「構わん、早く話せ」

「はいはい、かしこまりー」

 そうして得た情報は、少女が言う通りなかなか面白い内容だった。
 これは良いことを聞いた、とガルニールは一人ほくそ笑む。
 陰気に笑う依頼主に、少女は汚物でも見るような目で「うげぇ」と舌を出していた。