守るようなしぐさについ、ピケの涙腺が緩む。情けない顔をして彼を見上げたあと、ひしっとその腰へ抱きついた。
 そのままグリグリと額を擦り付けながら、ピケは呟く。

「強くない。私はちっとも強くない。強かったらあんなに怒られたりしないよ。あの男、私でストレス発散していたに違いないわ」

「おやおや。否定するのはそれだけなのですか?」

 なんだかトゲのある声が上から降ってくる。
 ノージーだけはわかってくれると思っていたピケは、わかってくれない彼に苛立ちを覚えた。

「それだけって……?」

 抱きつく手を緩め、不機嫌にピケが見上げると、ノージーの目がスッと細められる。
 猫の獣人である彼が目を細める時。それは悪意がない、もしくは好意を伝える手段だが、これは違うとピケは悟る。

「王都ではもちきりですよ? 総司令官様はイネス王女の侍女に恋をしている、と」

 ノージーらしくもない、いじけているような声に、ピケはキョトンとして、まばたきをした。
 言われた言葉を反芻(はんすう)している。そんな顔である。

 彼女はしばらく停止したあと──とはいえ、ノージーに腰を抱かれたままだったので彼にエスコートされる形でのろのろと歩きながらだったが──言葉に含まれた彼の気持ちに思い至ったようで、急に顔を真っ赤にして、それから恥ずかしさをごまかすように、仏頂面を浮かべた。