王城に、うわさが流れている。
 曰く、総司令官様にもようやく春が訪れたらしい、と。
 そしてそのお相手は、近頃熱心に訓練されている異国の王女の侍女らしい、とも。
 ささやかな憶測でしかなかったうわさはささやかれるごとに信ぴょう性を増し、王城から王都へ流れ出る頃には、まことしやかに語られるようになっていた。

「名前は……あー……ピピ、だったかしら?」

「やぁねぇ、違うわよ。ピコよ、ピコ」

「なんだか小鳥みたいな名前だけど……総司令官様自ら、それも熱心に訓練するくらいだ。きっと、恐ろしくお強い方なのだろう」

「なんでも、不意打ちとはいえ、総司令官様に一撃入れたことがあるそうじゃないか」

「女の身で総司令官様にか⁈ おお、そりゃすごい。ロスティの女なら、夫を尻に敷くくらいの気概がなくちゃならん!」

「嫌だねぇ、あんたのはただの性癖だろう」

 アーハッハッと笑いが起こる。
 下町はいつだって明るい。活気があって、ピケに元気をくれる。
 だけど最近は少しばかり、居心地が悪い。

 うわさ話に花を咲かせる一団の隣を通り過ぎていった少女こそ、うわさの当人だと気付く者はまずいない。
 それでもピケは、居た堪れない様子できゅっと体を縮こませ、隣を歩くノージーに身を寄せた。
 するりとまとわりつく猫の尻尾のように、ノージーの腕が彼女の腰に回される。